2011年05月21日

継続企業の注記のある東京電力の決算短信と社長の退任

今週は、
通常の会計事務所としての業務のほかに、
研修講師の仕事をしたし、
飲み会にも参加し、
スポーツクラブにも2回行って、
全力で走り抜けた1週間でした

金曜日の飲み会に行けなかったのが残念ですが、 
計画していたことの70%は、
達成できたと思います。 

しかし、
反動で、
土曜日の午前は、
体が起きなくて、
昼過ぎに起床

そして、
予定では、
昨日実施したかったことに着手しました。

それは、
20日(金)に発表された東京電力の平成23年3月期の決算短信をチェックすることです。

1・本業は順調「だった」

決算短信の表紙の総括表をみるとわかりますが、
東日本大震災さえなければ、
東京電力の本業は全く問題ありません。

売上高は、
7%の増加ですが、
営業利益は、
40%の増加。

したがって、
売上高営業利益率は、
5.7%から7.4%に改善し、
総資産経常利益率も、
1.5%から2.3%に改善されています。

それから、
営業活動によるキャッシュ・フローも、
平成22年3月期とほぼ同額の9,887億円を確保しています。

2・東日本大震災が起きてしまった

税金を差し引いた後の当期純利益は、
1兆2,437億円の赤字。

それから、
自己資本比率は、
18.7%から危険水準ぎりぎりの10.5%に低下。

この自己資本比率の低下の原因は、
震災後の借入金の増加で、
財務活動によるキャッシュ・フローは、
1兆5,895億円のプラスとなっています。

3・赤字の原因

さて、
内容を細かく見てみましょう。

まず、
当期純利益が赤字の原因は、
15ページの連結損益計算書を見ると、
1兆204億円の災害特別損失の計上と、
4,599億円の繰延税金資産の取り崩しだということがわかります。

4・繰延税金資産の全額取り崩し

13ページの連結貸借対照表の流動資産と固定資産を見てみると、
繰延税金資産が全額取り崩されています。

すごいね。。。。

なお、
繰延税金資産の取り崩すかどうかの基準は、
トーマツのe会計情報のこのページに記載してあります。

今回の取り崩した理由は、
どれに該当するのでしょうか?

タイプ3の
「業績が不安定であり、
期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社」
ということになるのでしょうか?

監査法人で監査業務の最前線で仕事をしている公認会計士の先生、
ご教授お願いします。

5・利益が赤字でも、税金の支払額は前会計期間とほぼ同額

なお、
当期の純利益が赤字となった原因である、
1兆204億円の災害特別損失は、
税金計算上の費用(損金)にはなっていなくて、
したがって、
4,599億円の繰延税金資産と取り崩しも、
税金計算上の費用(損金)にはならないことも合わせて、
東京電力は、
この5月末日までに、
平成22年3月期とほぼ同額の法人税等を支払うようです。

なぜなら、
14ページの連結貸借対照表の流動負債には、
未払税金が計上されていて、
平成22年3月期が784億円、
平成23年3月期が702億円と、
ほぼ同額が計上されています。

6・東京電力は借金(借入金と社債)が返済できるのか

さて、
税金(住民税均等割りや事業所税を含む)を支払うことができるのでしょうか?

13ページの連結貸借対照表の流動資産を見ると、
現金預金が2兆2,482億円あることがわかり、
税金の支払いは、
可能なのかと思います。

しかし、
14ページの連結貸借対照表の負債の部を見ると、
短期借入金が4,062億円、
長期借入金が3兆4,237億円、
社債が4兆4,255億円あり、
現金預金は、
十分ではないことがわかります。

21ページの連結キャッシュ・フロー計算書の財務活動のキャッシュ・フローでは、
長期借入金が、
この1年間で2兆766億円借りたことがわかります。

まさに、
借金漬けの会社です

7・「継続企業の前提に関する注記」が記載されるのは当然でしょう

そんなわけで、
22ページには、
「継続企業の前提に関する注記」が書かれていて、
投資家などに、
「東京電力という会社が倒産するリスクがありますよ」ということを会社が表明しています

個人的には、
日本航空と同様に、
法律に従って、
倒産させたほうがよいと思うのですが、
どうなんでしょうか?

さて、
ここまでが、
平成23年3月期の過去の話です。

8・決算説明会資料を見てみる

本日の新聞などに報道されている話は、
こちらの「決算説明会資料」に全部書かれています。

この決算説明会資料は、
大変に良くできた資料で、
東京電力社員の「官僚的な優秀さ」を示していると思います。

別の見方をすれば、
この決算説明会資料は、
全部で50枚の資料ですが、
時間を含めたコストを考慮しない体質が、
感じられます。

9・賠償金などは、平成24年3月期以降に反映される

6枚目を見ると、
連結損益計算書に計上されていた「災害損失」の内訳が分かります。

これを見ると、
設備に関する損失が計上してあり、
被災された人などに対する賠償金などは、
一切含まれていないことがわかります。

つまり、
平成24年3月期以降で、
被災された人に対する賠償金などが、
損益計算書に計上されることになります。

10・東京電力は、原子力発電を諦めてはいない

なお、
7枚目には、
柏崎刈羽の原子力発電所を稼働させると、
1か月で90億円のコストダウンができると書いてあって、
東京電力の原子力発電への執念が感じられます。

11・賃下げは少額だから、東京電力社員は会社を退職しないでしょう

一方で、
合理化策については、
12ページに記載がされていますが、
報道されている通りで、
それほど斬新な内容はありません

(1)6,000億円の資産の売却
逆に言えば、
過去に、
電気料金で、
本業を継続するうえで、
不要な資産を6,000億円も、
社内にため込んでいたということです。

やはり、
企業には、
競争が必要です

(2)少額の賃下げ
費用の削減目標は5,000億円以上。
人件費の削減は、
以下となっています。

代表取締役は、
無報酬、
常務は60%削減、
執行役員は40%削減、

その他の管理職は25%削減、
一般社員は20%の削減だそうです。

この程度の賃下げなら、
社員のみなさんは、
東京電力に勤務し続けるでしょう。

個人的には、
社員OBにも責任はあるでしょうから、
年金の削減も必要だと思います。

(3)人員の削減を検討するそうだ

組織と人員をスリム化するとはかいてあるが、
人員の削減は検討段階だそうです。

東京電力のような官僚的な会社には、
やらなくても困らない仕事がたくさんあるので、
いなくなっても困らない社員がたくさんいると推定されます。

しかし、
東京電力の社員は、
優秀だと思いますが、
他社に転職して、
官僚的ではない仕事をさせたら、
ダメでしょう。

そうすると、
個人的には、
40歳以上の社員を対象とした早期退職制度の導入は、
必須と思われます。

12・平成24年3月期の社債の償還のための資金は大丈夫なのか?

26枚目の資料を見ると、
社債の償還金額が、
年度で一番多いのが、
実は、
平成23年度(平成24年3月期)で、
7,479億円あります。

償還できるのでしょうか?

新規の発行は難しいでしょうから、
会社の現金預金が
7,479億円流出すると、
賠償金だけでなく、
運転資金にも困るはずです。

さらなるリストラが、
必須だと思います。


13・サラリーマン社長は退任できるが、オーナー社長は退任できない

発表されているように、
6月28日の株主総会で、
清水社長が、
退任して顧問となり、
常務だった西沢氏が社長となるようです。

株主総会、
何時間を要するのでしょうか?

株主総会担当部署(総務部?)は、
6月28日までは、
想定問答集の作成などで、
家に帰れないでしょう。

修羅場です。

社長になる西澤常務は、
無報酬で、
さらに、
被災者を救い、
東北、日本の経済を元気にするために、
大変だと思いますが、
ぜひ頑張っていただきたいです。

一方で、
退任できる清水社長は、
ラッキーです。

被災者の救済のような仕事をするのでしょうが、
個人で借金を負うわけではありません。

数年すると、
企業年金ももらえるでしょう。

サラリーマン社長とオーナー社長は、
それぞれ、
良い点、
悪い点がありますが、
危機に際して、
辞職ができて、
個人的な負債を負わなくてよいという点は、
当然とはいえ、
サラリーマン社長の特権であり、
オーナー経営者には、
納得ができない点かもしれません





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